地1号受信機・ム−65型受信機
地一号無線機受信機解説
1.開発の経緯
本機は、National社のHROを参考に製作されたことは、多くの人から指摘されている。また、その通りであると言わざるを得ないが、開発にあたっては、日中戦争から日米開戦(大東亜戦争)へと総力戦による大量の通信兵器の生産の必要性及び大戦後期から末期の戦局の悪化により生産物資の枯渇等の状況から、地一號の機能も戦局に合わせて改善(一部改悪もあるが)が行われた。形式も地1号無線機・受信機→地1号受信機→地1号受信機(二型)→ム65改受信機と変遷している。
昭和12年(1937)4月に、陸軍通信学校研究部で航空部隊用無線通信器材のみに限り研究審査が陸軍航空技術研究所に移管され、昭和13年(1938)末から「地シリーズ」、「飛シリーズ」の研究審査を行い、昭和15年(1940)から整備に着手することとなった。九四式対空一號無線機は、試作したのみで不整備器材となっていたため、米国のHROをベースに新たに地一號を制式制定したものと思われる。
ここで、HROをベースとして採用した機種であれば、ダイヤル機構に遊星歯車方式のPWダイヤルを採用しなかったのか、また日本では外国のコピーを行う場合には部品配置を左右逆にするとよく言われますが事実地一號でも真空管の部品配置をなぜ変更したかの大きな疑問が以前からあり、いい機会なのでHROの資料を再検討した結果、以下の結論を得た。
ラジオ・アマチュア・ハンドブックからの引用ですが、「National社のセットの特長はマイクロ・ダイヤルを用いることで、このダイヤルはスパー・ギヤーを組合せた縦型とウォーム・ギャーを使った横型とがある。」と明記されています。このことから、地一號は後者のウォーム・ギャーを使った横型を採用したと思われる。しかし、なぜ後者を選択したかの謎であるが、当時の工業力からみて適正な判断と思われる。
真空管の配置については、構成図からわかるとおり、HROの真空管配置では、入力と出力が近接した高周波信号が回り込む配置であり、このためのシールドを施す必要があり、地一號では、入力と出力が適切な関係となるように配置換えを行っている。なお、HRO,地1號とム65型の構成図を以下に示す。
2.電気的特性
真空管の構成は、HROの回路構成をほぼ踏襲しているが、HROと比較すると水晶フィルターの挿入位置が周波数混合部の直後から地一號では第二中間周波増幅の直後に変更されている。AVCとMVCの切替がなく、AVCのみとなっている。AF利得調整から中間周波増幅段の調整に変更されている。
また、軍用では受話器(2個セット)を使用し、スピーカを鳴らす必要がないことから低周波の電力増幅も専用の真空管42から6C6による増幅に変更されている。このような特徴は軍の意向によるもので保守管理の観点から真空管の品種を絞ることも1つの要因かもしれません。
3.機械的特性
地一號、地三號、地四號は大きさの大小はありますが、同じ形態の構成となっている。
横46p×縦22p×奥行26pであり、かなり大型な機種に分類される。コイルパックは横長のもので、4連のバリコンはウォーム・ギャーで駆動される。
地一号では、高周波段は上下ともシールド板で囲んでいるが、ム65型になると上部真空管部のシールド板はありません。
4.特記事項
大戦後期になると、大量の通信兵器が必要となり、地一號の構成のままでは、性能面から製作されたため大量生産に不向きでした。
このため、ムシリーズでは抜本的な見なおしを図り大量生産し易い構成となっている。勿論、水晶フィルター等については、ブラジルからの水晶原石のストックも枯渇し、LCフィルターに簡略化されており、AVCの機能も省略されている。
生産性の面からみると、地一号では、抵抗器、蓄電器類は一部を除き本体の筐体に直接部品をねじ止めされている。これは、生産ラインからするとかなり大きな筐体を一つ一つねじ止めする工程が必要であり、戦時下において大量生産には不向きである。
このため、ム65型では、筐体に直接部品を接続するのではなく、シールド板や部品専用のアルミ板を用意し、その板の上に抵抗器、蓄電器類をねじ止めして全てブロックとして部品化を行い、後は組み立て配線を行えばよく、かなりの生産性があがったものと思われる。
また、配線のはんだ付け作業を容易にするため、コイルパックの接続端子部分も上下反対とし、あえて地一号のコイルパックとの互換性をなくしている機種も存在している。
このように戦後のQC活動の先駆けの様子が、この受信機の変遷をみることにより戦時下でも先人の苦労の跡がよく汲み取れる。戦後の経済発展の原動力は戦時のこの経験がもととなったものではないでしょうか。なお、筐体上部の蓋には、結線図がシルクスクリーンで塗装しているが、右上には監督者なのでしょうか『高橋』の刻印があり、メーカのこころ意気を感じさせる。当然他の製造メーカの通信兵器に個人名はありません。
5.整備・復元について
オリジナルの地一號やム65型を手に入れるのは現在では困難である。現在まで4台入手したが、ほとんどの場合真空管はMT管もしくはGT、メタル管に変更になっている。IFTもC同調のため、戦後のμ同調のものに換装されています。
また、地一號ではIFTのため筐体本体に大きな穴があけられている。前面バネルには、Sメータ用の穴が大きくあいている。このような状態で入手したものを数年かけて復元作業を行い、ほぼ当時の姿や機能に一歩でも近づけたらと願っております。
6.疑問点
地1号受信機は地1号無線機・受信機→地1号受信機→地1号受信機(二型)→ム65改受信機と変遷したと記述しましたが、昭和19年度以降では生産現場が混乱ことが原因なのか、名称付与と型式とが相違する受信機が見られます。
下記の銘板がその証拠です。この銘板の記載形式は敗戦直前のものです。
このことから、地1号受信機については、例外的に地1号受信機とム65の2系統の生産が敗戦まで行われていたと考えられます。
なお、地1号受信機とム65の相違は、AVC回路や水晶濾波器の有無があり、受信機性能にも大きく影響していました。
諸元
用途 | 航空部隊用遠距離地上用無線機 |
通信距離 | 1,000Km |
周波数 | 送信 2,500 〜 13,350Kc (常用 3,100 〜 6,700Kc) 受信 140Kc 〜 20Mc |
送信機 | 方式 水晶(又は主)発振−二段増幅 出力 A1 1.100W A3 400W 電波形式 A1,A2,A3 電源 8HP 単気筒2サイクルガソリンエンジン 2,200V0.4A,1,000V0.4A,800V0.25A15V50A発電 機 |
受信機 | 方式 スーパー RF2 IF2 AF2 真空管 RF RF CONV IF IF DET,AF AF 6D6−6D6−6C6−6D6−6D6−6B7−6C6 | | 6C6 6C6 OSC BFO 電源 6V蓄電池及び250V60mAコンバータ又は整流器 |
空中線 | 逆L型 H=12m L=35m 又はダブレット |
整備数 | |
備考 | 本機受信部は米国HRO受信機を参考として設計された。 |
回路図 地1號無線機受信機
回路図 地1号受信機
回路図 地1号受信機(二型)
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参考文献
日本無線史 第九巻 電波監理委員会
本邦軍用無線技術の概観 大西 成美